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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)18号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩沢誠の上告理由について。

仮処分決定により売買その他の処分行為を禁止された不動産の所有者は、絶対にその物件の処分権を失うものではなく、ただ仮処分債権者に対する関係においてこれを処分することができず、従つてその所有者から仮処分物件を買い受けた第三者は、その所有権取得につき登記その他の公示方法を施した場合においても、仮処分債権者に対し所有権取得の効力を対抗することができないけれども、右仮処分の登記が適法に抹消されたときは、爾後その効力を対抗することができるものと解すべきことは、つとに大審院判例の示すところであつて(大正一一年(オ)第八五四号同一二年五月二一日判決民集二巻三〇五頁、昭和八年(ク)第一八一号同年四月二八日決定民集一二巻八八八頁、昭和一三年(オ)第八〇七号同一四年七月一九日判決民集一八巻七六一頁参照)、当裁判所はこれを変更する必要を認めない。原審が右と同一の見解にもとづき、仮りに本件土地についての被上告人(被控訴人)等の分筆登記もしくは所有権移転登記手続が上告人(控訴人)主張のとおりその主張にかかる処分禁止の仮処分登記後になされたものであつたとしても、仮処分債権者である上告人が本案訴訟で勝訴し実体法上の権利が確定しない限り、単なる仮処分債権者である地位にもとづいては、上告人には右各登記の抹消請求権はない、旨判示して上告の本訴請求を棄却すべきものと判断したのは正当である。論旨は、右と異なる独自の見解にもとづき原判決を非難するものであつて、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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